様々な業界で不況の波が押し寄せる中、ネット関連をはじめ好調な業種があります。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で飲食業や観光業など直接的な被害を出している業種のほか、その他の間接的な被害によってもダメージを受けている業種もあります。
その一つが新聞社です…!
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朝日新聞が2020年9月中間決算で、なんと419億円の赤字を叩き出しました。
参考リンク:朝日新聞デジタルの記事
朝日新聞自らがネット記事で発表している通り、売上高も前年比22.5%減の1,390億9千万円でした。
同社公称の発行部数は2020年の上半期の段階で516万部としてきましたが、2018年度は600万部だったことを考えると、かなり苦しんでいて、2020年9月にはついに500万部も割ってしまいました。
また、新聞社や系列のテレビ局がなかなか切り込まない※”押し紙”を差し引くと、実際は350万部程度ではないかとささやかれています。
参考リンク:デイリー新潮の記事
デイリー新潮の主張は下記の通りです。
押し紙を取り巻くニュース
「平成28年1月から5月までの期間に関しては、被告(引注:産経)による減紙要求の拒絶がいわゆる押し紙に当たり得るとしても、原告が実際に被った負担は極めて限定的であり、原被告間で営業所の引継ぎに関する協議をする中で原告が顧客名簿の開示に応じないなどの対応をしていたとの交渉経過があったことにも照らすと、この間の本件各契約を無効とするまでの違法性があるとはいえない」判決文抜粋
上記をまとめると、「押し紙はあったけど原告も非協力的な部分があったし、産経新聞がそこまで酷い対応ではなかったから、損害賠償するほどでもないね」って感じです。
元販売店主は控訴しなかった為、敗訴は確定しました。
地方紙の佐賀新聞も元販売店主に訴えられ、一審では仕入れの強制を認める判決が下されました。
その後高裁では和解が成立(2020年12月16日)しました。
和解の内容は明かされていませんが、販売店主が納得しているところを見ると、佐賀新聞側の譲歩は明らかでしょう。
押し紙を実質禁止する法令
発行業者が、販売業者に対し、正当かつ合理的な理由がないのに、次の各号のいずれかに該当する行為をすることにより、販売業者に不利益を与えること。
- 一 販売業者が注文した部数を超えて新聞を供給すること(販売業者からの減紙の申出に応じない方法による場合を含む。)。
- 二 販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること。
— 新聞業における特定の不公正な取引方法(平成十一年七月二十一日公正取引委員会告示第九号)
発行業者とは新聞社。
販売業者とは新聞販売店です。
「新聞社は新聞販売店が注文した部数の範囲で新聞を卸しなさい」という内容です。
つまり、1000部注文を受けたなら1000部しか販売店に卸してはダメで、例えば2000部卸して売上を確保なんて絶対やっちゃいけないことです。
まあこれは社会常識として当たり前で、わざわざ法令にする必要もないほどです。
押し紙の問題点
言わずもがな、新聞社の優先的地位を利用した下請け虐めです。
しかし問題はそれだけではありません。
話を分かりやすくする為、例を出します。
お馴染み、「Yahoo!JAPAN」のHPの1日当たりのアクセス数はご存知でしょうか。
月間で800億アクセスとか言われていますから、1日当たりはだいたい2億~3億アクセスです。
YahooJAPANはこれを決算資料で公開していますが、Yahoo!JAPANのHP上に広告を出したい企業は、このアクセス数を信じて広告費を支払います。
例えば、1日あたり2億アクセスを基準として広告費を算出すると、1億円でした。
しかし、「実は1日あたりのアクセス数が1億でしたサーセン」なんて言われると、広告主は何と言うでしょうか?
「話が違う。アクセスが半分ならば広告費も半分の5,000万円が妥当だ」
そりゃそうなりますよね。※YahooJAPANは勿論そのようなことはしていません
新聞社が発表する発行部数を信じて広告費を支払っている広告主はゴマンといます。
つまり、「押し紙」が存在することは、「広告費をかさ上げされている」ことと同義なのです。
だからこの問題は根が深いんですね。
新聞発行部数推移
新聞(一般紙)発行部数推移(2000年~2020年)
日本新聞協会によれば、2000年以降で新聞(一般紙)全体の発行部数がピークだった2001年の4,755万部から、2016年には4,000万部を割り込み、昨年2020年には3,245万部になりました。
「社会人になったら新聞を読みなさい」
これはひと昔前ならだいたいどこの企業でも言われていました。
上記のグラフにはありませんが(リンク参照)、1世帯当たりの部数は2000年の時点では1.13だったのが、2020年には0.61になっています。
つまり、全体の世帯数の6割しか読んでいない計算です。
実際には会社に配られているケースや、人によっては複数の新聞を取っている家庭もありますので、実際にはもう少し少ないです。
こうなってくると、冒頭のニュースにあったように、朝日新聞のような巨額の赤字を計上することになります。
新聞業界は不動産に活路を見出す!?
もはや本業の不調を隠し切れない新聞業界ですが、実は対策も打っていました。
最も分かりやすい例が朝日新聞社です。
朝日新聞社 セグメント別売上高・利益等の推移
朝日新聞社 不動産事業とメディア・コンテンツ事業の売上高推移
メインの売上高であるメディア・コンテンツ事業は年々売上が下がっています。
メディア・コンテンツ事業の2016年と2020年を比べると、なんと20%も下がっています。
不動産事業の方は桁が1つ少ないですが、同じく2016年と2020年を比べると2倍になっています。
朝日新聞社 不動産事業とメディア・コンテンツ事業の営業利益の推移
営業利益を見ると明らかですが、メディア・コンテンツ事業は規模が大きいだけに経費もこれまた大きく、2020年にはついに赤字になってしまいました。
逆にこれを支えているのが不動産事業だというのが見て取れます。
メディア・コンテンツ事業が約50億円の赤字の中、不動産事業で74億円の営業利益を叩き出しています。
利益率が半端ではないのでしょう。
朝日新聞社 不動産事業とメディア・コンテンツ事業の営業利益率推移
ってことで二つの事業の営業利益率も比較してみました。
赤い方のメディア・コンテンツ事業は上記のうち最も良かった2016年でも1.8%。
対する青い方の不動産事業はだいたい20%前後になっています。
つまり、朝日新聞社の稼ぎ頭である事業は、メインのはずのメディア・コンテンツ事業ではなく、不動産事業になったことは間違いありません。
例えば朝日新聞は本社社屋及び所有物件(フェスティバルホール)を超高層ビルツインタワーに建て替える計画を発表し、2010年には東側の中之島フェスティバルタワーイーストを着工、2012年に完成しました。
場所は大阪市役所や日銀大阪支店ほか、大企業が集まる中之島東部にあって四ツ橋筋沿いの超一等地です。
中之島フェスティバルシティ(右が中之島フェスティバルタワーイースト/左がウエスト)
地上39階建、高さが約199mの大阪でも有数の巨大ビルです。
また、その西隣には2017年に開業の中之島フェスティバルタワーウエストがあります。
同物件の規模もイーストと同様に巨大で、地上41階建、高さ約200mです。
いずれも基準階オフィス床面積は820坪ということで、梅田阪急ビル(大阪梅田ツインタワーズ・サウス)の850坪やグランフロント大阪(タワーA)の810坪など、既存の超大型ビルと比べても遜色がない立派なビルが2棟、中之島に聳え立っています。
これが朝日新聞グループが誇る不動産、中之島フェスティバルシティですが、こういった不動産からの売上は非常に好調でした。
毎日インテシオ
同じく大阪発祥の毎日新聞も、現大阪本社裏手に毎日インテシオという超高層ビルを2007年に開業しています。
オオサカガーデンシティの西端ではありますが、大阪都心の一等地です。
地上21階建、高さは約99mです。
ブリーゼタワー(2014年頃撮影)
大手新聞社5社のうち3社(朝日新聞、毎日新聞、産経新聞)が大阪発祥ですが、続く産経新聞も不動産には力を入れています。
代表的なのがオオサカガーデンシティの一角をなすブリーゼタワーです。
※写真はちょっと古いです。
当然ながらこちらも大阪梅田の一等地に立地。
2008年完成の地上34階建、高さ約175mで、非常に存在感のある超高層ビルです。
また、2021年8月には本町サンケイビルが竣工予定です。
規模は地上21階建、延床面積30095㎡、基準階床面積336坪、高さは約100mです。
本町エリアではトップクラスの規模の大型オフィスビルに仕上がります。
参考リンク:サンケイビルHP:本町サンケイビル
産経グループの産経ビルは、このほか東京にHareza池袋やHarezaTowerなど、オフィスだけでなくシネマコンプレックスや劇場、ホールなどを併設した超高層の複合ビルを開発しています。
残る大手新聞社の中で、最も発行部数が多い読売新聞も多数の不動産を所有していると目されていますが、こちらは他社と違い有価証券報告書がありませんので詳細は不明です。
読売新聞大阪本社ビル
読売新聞大阪本社ビルは大阪市北区野崎町にあり、梅田からやや離れてはいますが徒歩圏です。
こちらは貸しビルではなく、自社ビルとして使用しています。
最後は日経新聞ですが、有価証券報告書を公開しているものの、有料会員限定公開の為こちらも不明です。
他4社に比べると不動産所有のイメージは薄い代わりに、デジタル記事には積極的に投資してきましたので、他社に先行して紙媒体からデジタル媒体に移行した節があります。
どちらかと言えばこちらの方が今の時代に即した新聞社としての在り方のような気がします。
ちなみに、日経新聞大阪本社は天満橋にありましたが、北浜に移転し、跡地は隣地のテレビ大阪本社ビルとともに再開発が予定されています。
こちらの事業主が日経新聞になるかどうかは現状では不明です。
紙媒体での新聞は2000年を超えたあたりから厳しい状況であることはグラフから分かりましたが、今後はデジタルへの移行だけでは厳しいでしょう。
すでに”マスゴミ”なんて揶揄されるほど報道の質が落ちていることは知られています。
テレビにも言えることですが、速報性はツイッターなどのSNSに負けているし、独自ネタが年々少なくなっています。
そんな新聞社の生き残る道は、今のところ不動産事業が一番固いのは間違いありませんが、はたしてそれで良いのか?という疑問は残り続けます。
次回はテレビ局を含む、マスコミの不動産業についても解説していきます。
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