2020年から2021年にかけて中国武漢発、新型コロナウイルスの世界的な蔓延への警戒から、訪日外国人旅行客(インバウンド)の数が激減していました。
年間3,188万人のインバウンドを数えた2019年とは大違いな現状で、多くの方がご存じの通り深刻な経営難に見舞われている業界がいくつかあり、先行きに期待する声は多いです。
参照:JNTO(日本政府観光局)
日本政府観光局が出している統計によれば、上の表で2021年8月までのインバウンド累計(推計値)は17万3,300人です。
そのうち観光客は上の表ではカッコ内の数値で、わずか4,641人。
比率で言えば2.6%。
それ以外はビジネス目的などです。
ちなみに、コロナ禍前の2019年の8月までの数値はインバウンド全体で約2,214万人で、そのうち観光客が約1,973万人ということで、ほぼ9割を占めます。
また、右の表に2020年の数値があります。
2020年は年間を通してのインバウンドの総計が約411万人、観光客が約331万人ですが、8月までは同約395万人、約331万人でした。
但し、緊急事態宣言が出された4月以前の1~3月までにその大半を占めています。
具体的には上記3ヶ月間のインバウンド合計が約394万人、そのうち観光客が約330万人。
昨年からの約1年半は、観光業界をはじめ運輸、飲食など関連する業種は地獄の様相でした。
さて、今後どうなっていくかは期待が膨らむところです。
2021年は9月30日にようやく緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置が全国全ての都道府県で停止されました。
これにより、まずは国内の観光や飲食における潜在需要が大きく刺激され、繁華街や観光地の人手が完全に戻りつつあります。
インバウンドはどうでしょうか?
2019年までの訪日客の内訳は、実はほとんどが隣国である中国、台湾、香港、韓国で、その比率は7割に上ります。
つまり、これらの国や地域の観光客が訪日しない限りは、2019年の水準に戻るのは大変厳しい状況です。
2019年訪日客の内訳(JNTOのデータより作成)
中国
上記4つの国や地域の情勢を見てみましょう。まず中国。
先日記事にした通り、中国不動産大手の恒大集団の破綻危機に端を発する不動産バブル崩壊の可能性が高まっています。
これは中国国内でほぼ完結する問題と思われますが、インバウンドを考える上では非常に悲観的な現実です。
まず、中国都市部では慢性的な住宅不足となっています。
北京や上海、深センなどの大都市でマイホームを購入しようと思えば、平均的なサラリーマンの年収の40倍とか50倍の価格の不動産となります。
日本で例えるなら、年収500万円の世帯だと2億円のマイホームを購入する計算です。
また、年収の40倍ということは、年収が据え置きなら飲まず食わずで光熱費や税金すら払わずに40年間ローンを払わないといけない計算です。
もちろん普通は年収は上がっていくのでしょうが、世の中が不景気になるとそうもいきません。
多くの諸国でもそうですが、不動産や株で損をするのは中流階級以上の層です。
中国ではこれが顕著で、そもそも国外に旅行できるという時点で上流階級であることが多いです。
今回の中国不動産バブル崩壊の予兆により、国外への旅行を控える動きは大きくなるものと思われます。
台湾
2021年8月13日に台湾行政院(内閣)が発表したGDPの見通しは、前年比5.66%でこれまで発表していた数値を上方修正しています。
コロナ禍においては日本以上に厳しい措置を執り、感染者数は他の国々と比べても各段に少ない状況でした。
経済へのダメージは大きかったですが、立ち直りも早く、主要産業である半導体などが好調です。
中国との関係は相変わらず悪いですが、戦略的に利害が一致するアメリカと蜜月関係を築きつつあり、当面は安定するものと思われます。
一点注意するとすれば、中国の経済が危機に陥った時、本土の中国人が真っ先に目指す先の一つが台湾になります。言語が同じというのはとてつもなく大きい要素です。
そうなると台湾経済を混乱に陥れる可能性が高いです。
香港
2020年7月1日に中国本土の当局によって「国家安全法」が施行された香港ですが、一国二制度が崩壊して民主主義が失われた影響で、アジアの金融センターとしての地位が揺らいでいます。
国家安全法の詳細や影響については下記の記事にてまとめています。
肝心の日本への渡航ですが、香港自体が政情不安ということもあり、のんびり旅行などしていられないというのは想像に難くありません。
大韓民国
この中で最もインバウンドが見込めない国かもしれません。
多くの方は昨年のコロナ禍によって、全体のインバウンドが激減したことでお忘れになっているかと思います。
実は一昨年2019年7月に日本政府が韓国への半導体素材の輸出管理を優遇していた状態から通常の管理に戻した(ホワイト国除外)ことで、この後の日韓関係は急激に冷え込んでいました。
※優遇措置をやめただけで、規制を通常より強化した訳ではありません
これまでも日韓は様々ないざこざがありましたが、本ブログでは政治色が強くなりすぎるのを避ける為、割愛致します。
日韓関係が冷え込んだ具体的な事例として、2019年8月(ホワイト国除外の直後)のJNTO(日本政府観光局)の報道発表資料を引用します。
韓国は、前年同月比 48.0%減の 308,700 人であった。最近の日韓情勢もあり訪日旅行を控える動きが発生していることに加え、韓中関係の改善による中国への渡航需要の回復や旅行先としてベトナムが人気になるなど海外渡航先が多様化していること、韓国経済の低迷もあり、訪日者数は前年同月を下回った。
引用:JNTO(日本政府観光局)https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/data_info_listing/pdf/190918_monthly.pdf
上記の通り、前年同月比でおよそ半分に減っています。
ちなみに、他の3つについては下記の通りです。
● 中国は、前年同月比 16.3%増の 1,000,600 人で、8 月として過去最高を記録。夏季休暇シーズ
ンに伴い旅行需要が高まる中、新規就航や増便による航空座席供給量の増加に加え、1 月から開始した個人査証の発給要件緩和の効果もあり、訪日者数は好調に推移した。● 台湾は、前年同月比 6.5%増の 420,300 人で、8 月として過去最高を記録。地方への新規就航
や増便、チャーター便の運航による航空座席供給量の増加に加え、航空会社のストライキに起因する航空運賃の値下げの影響があり、訪日者数は前年同月を上回った。● 香港は、前年同月比 4.0%減の 190,300 人であった。増便等による航空座席供給量の増加はあ
るものの、大規模デモ等抗議活動の影響による空港の閉鎖に加え、台湾、タイ等安価に楽しめる旅行先が好評であることもあり、訪日者数は前年同月を下回った。引用:JNTO(日本政府観光局)https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/data_info_listing/pdf/190918_monthly.pdf
中国、台湾は順調に増加、香港は微減の中で韓国だけが半減という異常さでした。
2019年8月と2020年8月のグラフを見てみるとこんな感じ。
全体の7割が上記4つなのは変わりませんが、中身の比率が大きく変わっています。
まとめ
日本国内では緊急事態宣言期間中も繁華街はそこそこの人出があり、人々の鬱憤が溜まっているのがよく分かりました。
10月は祝日がなく、11月も3連休がありませんので、国内旅行においては年末年始に旅行が集中するものと思われます。
新型コロナウイルスの新規陽性者数は昨年と比べてかなり拡大しましたが、ワクチンの効果なのか、重症化率はかなり下がっています。
年末年始あたりで再拡大の懸念はありますが、現状の重症化率であれば緊急事態宣言等を出さずに耐えられそうな気はします。
国外については上記の通り、今後2019年並みもしくはそれ以上のインバウンドは当面期待できません。
観光地周辺の商業用不動産を所有されている方は要注意です。
観光関連の業種は今後も伸び悩む状況が続く可能性が高いので、コロナ禍で打撃を受けたホテルや民泊などは用途変更をして賃貸マンションに転用など検討が必要かもしれません。
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