ヤバイ入居者。借地借家法という壁

雑記

参院選が終了しました。

先日の安倍元総理への銃撃事件を受け、まだ憤りが収まりませんが、筆を取ってみます。

今回の事件に関連した記事という訳ではないですが、ほんの少しだけ関連付けています。


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↑のツイートのように、歴史的な大事件(もちろん極めて悪い意味で)でした。

安倍元総理を銃撃した犯人は奈良市内にあるシティホームズ大宮という賃貸マンションに住んでいました。※住所は奈良県警が発表

警察の捜査で、犯人の部屋から爆発物などが見つかったもんだから、マンションの住人はもちろん、近隣住民を含め避難させられるし、マスコミが大挙して押し寄せて大迷惑です。

この物件、レインズの成約事例には載っておらず、ATBBの業者アカウントで閲覧してみると、間取りは1Kで19㎡程度、家賃は38,000円。だからどうした?

こういった不良入居者(そんな言葉で言い表すのも不快ですが)を入居審査で完全に防ぐことはできません。

人間の頭の中身にまで入り込めないのは当然ですが、映画「マイノリティ・リポート」のように、AIが将来的に犯罪を犯す人間をピックアップして事前に逮捕させるような未来は、それはそれで問題です。

ってことで、入居審査は保証会社を入れるのは当然になってきていますね。

いまだに保証会社を入れていない物件オーナーは、自身でそれなりの与信チェック機能があれば良いのですが、実体は真逆でしょう。

賃貸の現場では、与信チェックなどできない物件オーナーが保証会社を入れない選択肢をあえて選んでしまっています。

さてここからは実話を元にしたフィクションです。

202X年12月30日

年末は大晦日の直前まで営業している某県某駅前の賃貸屋さんの話。

他のライバル賃貸屋は全て営業を終了して年末年始の休みに入っている中でも、さすがにこの日は客足は乏しい。

営業マンは来店客がいない場合、午前中に見込み客へのメールや電話で来店を促し、そのほかは書類の整理などに費やす。

昼下がり、ようやく複数の客が来店し、新人営業マンを除いて全員が物件の案内に出た。

午後4時を過ぎて少し空が暗くなってきた頃にさらに1組目の来店。

中年の男性1人。来店で開口一番「すぐ住めるところはありますか?」

応対したのは新人営業マン新田(仮名)。他は店長を含め全て別の顧客を案内中だった。

「ありますよ」

新人とは言え、上司からはそう言えと教えられている。「例え無くてもあると言え」って。

この新人の新田は今月から営業デビューしていたものの、まだ売上が乏しかったので、なんでも良いので数字が欲しかった模様。

「では、条件などはこちらの用紙に記載を‥‥」

マニュアル通りにアンケート用紙に記入を促す新人の新田。

しかし‥‥

「そんな細かい条件は無いです。〇〇市で家賃7万円くらいで2DKくらいあれば良いです。とにかくすぐ住めるところでお願いします

アンケート用紙に記入してくれず、中年男性のペースで話が進みそうな勢い。

困った新田は案内中の上司に電話報告し指示を仰ぐことに。

「すぐ入りたい人?何でも良いから決めて!」と先輩に言い放たれ、1人でこの中年男性の応対を任されることに。

「今日住めるところが最優先です」

「かしこまりました」

中年男性ペースながら、丁寧な口調は崩さないのを奇妙に感じながらも新人くんは物件を探すことにしました。

「お名前が鷺山さん(仮名)で、お仕事は‥‥家庭教師なんですね。」

どうやら職業が自営の家庭教師のようです。

「保証会社の審査は通らないと思うんです。5~6年前に携帯電話の引き落としをうっかり失念してしまって履歴が残っているからだと思います。」

鷺山の軽妙洒脱な口調は新田が中学校時代の数学の先生によく似ていた。

新田は鷺山に対して字頭の良さを感じた為、妙に納得しまう。

ちなみに、今回の事例だと保証会社の審査は信販系(カード会社)は落ちる可能性は高いものの、それ以外の保証会社は照会するデータバンクが違うので審査通過する可能性はあった。

新田はそれを知らなかった為、鷺山の申込は保証会社無しでいけねばならないと自分で自分の首を絞めるような営業になってしまった。

大手管理会社物件は全てNG。年末でほとんど営業終了している上に、入居審査がすぐに出る訳ではないので、一般の管理会社もやや難しい。

保証会社も絶対に避けたい。

上司や先輩に相談するしかない。案内中ではあったものの背に腹は代えられず連絡を取る。

「人吉オーナー(仮名)のとこならいけるんじゃない?2DKで7万円ならいけるよ」

そう教えてもらった新田。物件オーナーの人吉に連絡し、所有物件のハイツ人吉に1部屋空きがあることを確認し、本日中の入居が可能か打診してみることに。

「事情があるんでしょうね。ちなみにその方はどんなお仕事をされているの?」

「自営で家庭教師をされています。しっかりした方です」

「そうですか、分かりました。案内して気に入っていただいたら手続きを進めてください」

「ありがとうございます!」

売上が芳しくなかった新田は天にも昇る勢いで鷺山を案内することになった。

賃貸の営業マンというのは、すぐに入居したいお客さんには目がない。文字通りすぐに数字になるから。

物件には特段問題なく、申込手続きに移ることに。

申込書の職業欄は家庭教師。連帯保証人は遠くに住んでいる姉とのこと。

目の前に売上がぶら下がっている状態の新人君は、申込の記載について裏取りも行わずそのまま人吉オーナーに送ってしまう。

現在では住所を検索すれば住んでいる場所の様子も分かるし、名前を検索すればフェイスブックや過去に出場していたスポーツ大会、在籍している企業、顔写真、メールアドレスだけでもヤフーオークションなどの履歴が出てくる場合もあったり、何より逮捕歴があったりすると一発で分かる。※但し同姓同名の可能性はある

相手が怪しいと思ったらダメ元でこれら検索をかけるのは常識。でも新人の新田はそれを怠った。

後から分かったことだが、鷺山の姉と称する人物は存在せず、住所としていた公営団地の号室も存在しなかった。また、家庭教師を自営で行っているのも嘘だった。

「先日、高齢の母が大きな手術をしたから保険金がおりるまで一時的に貯金が乏しい。次月度の家賃は1月4日に支払うから、今日払うのは今月分だけにしてほしいんです。もちろん仲介手数料はちゃんと支払います」

敷金、礼金はゼロなので仲介手数料と火災保険だけで入居させてほしいという内容。

(これはオーナーの許可が必要だ)

当然ながらそう思った新田は人吉オーナーに連絡。

「気の毒に。そういうことならそれで良いですよ。その代わりADは家賃が入るまで勘弁してね」

(やむを得ない。仲介手数料だけでも良しとしよう)

決済金の額は10万円足らずだった。

鷺山は住民票と免許証のコピーだけで、確定申告書のコピーは後日持参するという一点張り。

ここまで来たらもう後には引けない新田はこれをオーナーに報告した。

尚、賃貸借契約書はオーナー指定の書式でメールで送ってもらい、その場で印刷しすぐに署名捺印を終える。本来なら連帯保証人への署名捺印も終えなければ鍵を渡せないが、最終的にオーナーがこれを了承した。

すでに19時を回り、上司と先輩は案内した顧客を連れて帰ってくる時間帯だったが、この日に限って案内が長引いていた。

彼らが戻ってきたのは重説が完了し、契約書への署名押印と鍵渡しが無事?完了し、鷺山が店を後だった。

年が明けて1月4日。

鷺山が今月分の家賃を入金すると約束した日だ。

1月5日、店に人吉オーナーからの電話。

「鷺山さんから家賃の入金が無いのですが‥‥」

ギクッ!

新田の背中から嫌な汗が出てくる。

(1月4日の約束で、今は1月5日。どれだけ遅くに振り込んでも翌日には反映しているはず。おかしい!)

すぐに連絡を取る新田。電話に出ない鷺山。

業を煮やした新田はハイツ人吉の鷺山の住む部屋に向かう。

部屋の前に付くとすぐにインターホンを鳴らす。

「はい‥‥」

鼻をすすりながらしんどそうに出てきたのは鷺山本人。

「ずいません‥‥体調を崩してしまって銀行に行けませんでした。週明けに必ず支払うので‥申し訳ありません」

仕方なくその旨を人吉オーナーに報告。

「そうですか、分かりました。待つしかないですね」

一旦胸をなでおろす新田。

しかし、上司や先輩は心配そうな面持ち。

「その入居者、かなり危ないな」

彼らは年末の締め日に来店した鷺山の顔も見られなかったものの、年末に急ぎの入居で来店する客の危険性について、新田にはそれほど教えていなかった為、ややバツが悪そうだ。

約束の週明け月曜日。入金無し。

次の日も次の日も、その次の日も。

オーナー自主管理の物件の為、本来は仲介業者は家賃督促の真似事などしないが、これを支払ってもらわないとオーナーからのADがもらえない。

焦る新田。電話に出ない鷺山。

1ヶ月経っても入金どころか連絡も無い鷺山。

上司に許可を得て2~3日のうち数時間張り込んでみるも動きはなく、手紙を入れてみるも反応無し。

連帯保証人である姉に連絡したらまさかの別人に繋がる。

そこでついに人吉オーナーがしびれを切らす。

「新田さん、ここからは私の方で対処しますが、随時協力だけはしてもらえますか」

家賃督促の手紙を何度も郵送、投函した。それでも反応無いし、手紙を受け取った形跡もない。

そんなこんなで滞納が3ヶ月になる。

そこで人吉オーナーは弁護士に依頼し賃料滞納による契約解除の内容証明を作成してもらい、配達証明付きで鷺山にこれを送付した。

ところが2週間後、郵便局から配達先が不在の為差し戻しに。

つまり受け取りを拒否した訳ではなく、不在

内容証明は法的な拘束力などはないが、送付先に届いた時点で手紙の中身の内容が伝わったとされる裁判の証拠にもなる重要書類。

しかし不在で受け取ってもらえなければ内容証明の効力が生かせない。

2度目、3度目も同様。埒が明かずついに訴訟を検討する人吉オーナー。

弁護士からはまずは調停を勧められる。

契約書に記載してあるのは、『家賃を滞納すれば即契約解除できる』との条項。

しかし裁判所は借地借家法第37条を持ち出す。

「第三十一条、第三十四条及び第三十五条の規定に反する特約で建物の賃借人又は転借人に不利なものは、無効とする。」◇借地借家法37条

たった1ヶ月や2ヶ月の滞納では即刻解除は賃借人に一方的に不利なので無効。催告しないで3ヶ月滞納したとしても催告しないのが悪いと。

肝心の内容証明が相手方に届いていないので、やや不利になるオーナー側。

ただオーナー側の弁護士も負けていない。

賃貸借契約の契約解除についての判例を持ち出す。

「およそ、賃貸借は、当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるから、賃貸借の継続中に、当事者の一方に、その信頼関係を裏切って、賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為のあった場合には、相手方は、賃貸借を将来に向って、解除することができるものと解しなければならない」昭和27年4月25日・最高裁判所第二小法廷判決

つまり、継続して家賃を滞納し連絡すらよこさない状態では当事者同士の信頼関係は地に落ちており、契約解除できて当然だ、との主張。

対する裁判所側。

オーナーの人吉は裁判官から賃料を督促するにあたって、賃借人が本当に不在だったのかなど根ほり葉ほり聞かれ、写真なども要求される始末。

そんな写真は用意していなかったオーナー側はますます時間だけを浪費することに。

賃借人鷺山はそれまで法廷には姿を現さず、入居してから7ヶ月経過して、一度だけ家賃を振り込んだ。

そしてその1ヶ月後‥‥ようやく鷺山が調停に現れたものの、さすがに裁判所も賃借人側の落ち度を認め調停は成立となる。

但し、オーナーの人吉は一度だけ家賃を受け取っているので契約の続行を認めていることになるとのこと。

わずか1ヶ月分の賃料を受け取ってしまったばかりにオーナーの落ち度を指摘されることになろうとは思いもよらず途方にくれる人吉。※受け取りを拒否して法務局に供託しておくべきだった

この為、賃料を受け取った6ヶ月後に引き渡すことになった。入居を開始してからかれこれ1年以上。入った家賃は日割り家賃2日分+1ヶ月分というわずかな金額。

こういった経緯で、さすがに新田のいる賃貸仲介店側もADの支払を求めることはできなかった。

新人の新田は上司にどやされたものの、こういった客を事前に注意しておかなかった会社の方の落ち度もあり、それ以上のお咎めはなかった。目先の売上に目がくらんだ結果だった。

最も得をしたのは一度住んでしまえば容易には借家を追い出されることはない、という借地借家法にがっちり守られた中で、賃料をほとんど支払わず1年以上も住み続けることができた鷺山。

自営で家庭教師をしているはずもなかった。つまりただの無職の詐欺師だった。

おしまい

かなり前の話ですが、本当にこれと似たようなことが起こりました。

ちょっとうろ覚えなので、細かい部分に錯誤があるかもしれませんが、概ね上記のような感じでした。

賃貸物件の明け渡し訴訟において、裁判所は基本的に現状維持に持って行こうとします。面倒なことは避けたいからです。

現状維持‥‥あえて書きますが、何とかして賃貸契約を継続してもらうことです。

借地借家法や消費者契約法など、賃借人を守る法律の後押しは沢山あり、物件オーナー側がこれを打ち破るのは容易ではありません。

賃貸契約において、1990年後半から保証会社が登場し、現在は完全に市民権を得ているのはこういった事情もあります。

巷で「保証会社は家主だけが得する制度だ」とか言っている自称不動産コンサルなんかがいますが、借地借家法を知らないと言わざるを得ません。

企業間取引の場合、代金を請求しても払わなかったら、その企業はどうなるでしょうか?

速攻で取引を中止され、企業の悪評が広まりあっという間に潰れてしまうでしょう。

普通は客とは対価を支払うものです。

携帯代や電気代、水道代ですら一定期間滞納すれば一方的にサービスを止められてしまう中で、住居だけはそれができません。

厄介なのは弱者のふりをしながらこういった借主保護の制度を悪用しながら居座る入居者がいることです。こういった話は賃貸借契約に限らずどんな現場にもいますね。

キーワードは「弱者のふりをしながら制度を悪用する」です。

あんまりこれを言うと「サベツガー」になっちゃうのでこの辺にしておきますw

入居審査をあまり厳しくしすぎるのは考え物ですが、安易に考えすぎるのも禁物です。

事が起こっても対応できるように管理会社に管理委託するのはもちろん、自主管理するにしても最低限で保証会社は必須ですね。

また、今回の教訓は契約解除通知後に家賃を受け取ってはならないことです。

この辺りは↓の本に詳しく書いています。書いてある事例がちょっと古いのが多いのがタマに傷ですが、本稿の執筆に大いに役立ちました。興味があれば是非。

 


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